|
|
1999年3月 調査委託機関:東京都労働経済局総務部企画調査課 調査実施機関:?日本アプライドリサーチ研究所 |
|
【目 次】 ?.都内中小企業が直面する技術・技能人材確保の課題――アンケート調査結果 ?.都内中小企業が直面する技術・技能人材確保の課題――ヒアリング調査結果 ?.次代を担う技術・技能づくりをめざして ?.次代の技術・技能を担う人材育成に向けて |
?.都内中小企業が直面する技術・技能人材確保の課題 ――アンケート調査結果―― |
ここでは、都内中小製造業に対するアンケート調査の結果から得られた知見を、求められる技術者・技能者のタイプ、継承状況、今後必要とされる技術、人材確保・育成と技術・技能継承、どのような支援策が期待されているか、などを中心にまとめました。
?.都内中小企業が直面する技術・技能人材確保の課題 ――ヒアリング調査結果―― |
募集しているものの、若い技能者が採用できない企業がいくつかみられた。「若手を採用できず苦労」や「辞めてゆく技能者も多い」など採用に苦労したり、折角採用しても辞められる事例もある。
一方、モノづくりに興味を持つ若い技能者をうまく引きつけている企業もいくつかある。これら企業の業種は、靴や家具など職人の手作りの分野であることが興味深い。
中小企業では技能者確保に苦しんでいる企業も多い。大手・中堅企業ではそのような傾向はあまりみられず、むしろ装置化・自動化などの進展と不況対策のために技能者削減の動きがみられる。
中小製造業では一般に技術者は非常に少なく、採用も難しい。工業高校、専門学校卒の技術者もいるが、技術者の多くは理系の大学卒であり、大卒採用の困難さとも関係している。
電子・電機や化学等の分野で成功しているハイテク企業では、大卒技術者を然程困難なく採用できている。絶えず新しいことが勉強できるなど生きがいを感じる環境であることも影響している。
「工場現場でOJT」、「OJTで育成」、「先輩のベテランがOJT」など多くの中小企業がOJTを実施。整ったマニュアルや文書はないのが大半で、あってもごく限られたものであることが多い。
特殊技能を有する職人が行う分野でその複雑なプロセスをマニュアル化し、若い人でもできるようにした例えば、「杜氏の勘によっていた酒造りをマニュアル化した」という例もある。
電子・電機など技術進歩が速い分野での技術・技能育成に有効と思われるのが中堅・若手を中心とした自主的な勉強会である。
「忙しくて教育のための時間がなく不充分」、「仕事が多すぎて時間がとれない」などで、経営者は教育への意欲はありながら、仕事に追われ時間が取れないために育成が不充分である状態が窺える。
コンピュター技術など新しい技術に年配技能者がついてゆけないのも経営者の大きな悩みである。
若い世代からの「なぜそうするのか」などの合理的な根拠を求める質問に古い世代が応えられないことも要因の一つ。また、若い世代に教えたがらないという教育の拒否という風潮もある。
中小企業では自社教育が不充分なため、機械操作習得など購入した機械メーカーの研修派遣に依存する例も多い。技能育成ニーズがあるにも関わらず適当な公的訓練機関がないという悩みもある。
大手・中堅企業が有する技術・技能は、技術者による企画開発、技能者による組立の比重が高い。大手・中堅では技能検定や公的資格取得を奨励しており、概ね役職の前提条件となっている例が多い。
大手・中堅においては工場現場の役職(技能者は課長位まで)に必要な能力は特殊な技術・技能というよりは、組織の管理者能力を反映するという色彩が強い。この点で中小企業と大きく異なる。
大手・中堅で技能継承および人材確保のために「マイスター制度」や「師匠制度」を導入している企業もあるが、人数はそう多くなく、名誉職的色彩が強く実質的な機能は模索中という印象を受けた。
商品企画や開発力の強化のために技術者育成には力を入れるが、技能者は全般的にはコスト削減、効率化を図るため、機械化・コンピューター化を進め、技能者削減に向かっている傾向がある。
作業効率アップやポカ休対策として、多くの作業工程や機械を扱える多能工を育成しようとしている方向も見られた。
大手・中堅は輸出をしている企業も多く、そのためにISO取得が必要条件となりつつある。今後はISO取得の有無がその中小企業選別の一つの基準として問われることになると思われる。
大手・中堅は技能者削減の方向に向かっており、実際の技術や技能はさらに中小企業に移転される可能性がある。中小企業では、これら最新技術を進んでいかに取り込むかが重要な経営課題。
中小企業は半導体回路設計など新規技術・技能分野や品質管理等を学べる公的研修や育成の場を望んでいる。人材は大手・中堅に流れる傾向があり、中小企業はどうしても人材不足になりがち。
若い技能者を充分に教育できない企業に退職した高度熟練技能者を講師として派遣し、育成・訓練することが考えられるが、高度熟練者が必ずしもよい教師とは限らず教え方、テキストの作成など「教えるテクニックの教育」を実施することが必要である。
中小企業では組織の管理という業務が大手・中堅ほど必要とされないためか、大手・中堅のように職能とほぼリンクしている公的資格取得のインセンティブが充分に働いていないケースも多い。
若年技能者の意欲不足や育成環境の構築が問題。しかし、若者の物作りへの欲求は決して弱くはないと多くの企業経営者達は語る。環境さえ整えばモノづくりへ向かう若者も多いと思われる。
技術・技能者の社会的ステイタス向上を望む声は強い。技術・技能者のステイタスが他の職種に比べて高くない状況下ではその育成・継承には克服しがたい困難さと限界があると経営者は感じる。
?.次代を担う技術・技能づくりをめざして |
企業の海外移転などによる産業の空洞化や若者などのモノづくり離れ、さらには熟練技能者等の高齢化などの進行により、技術・技能の継承問題は深刻化しつつあります。スムーズな人材育成に対して行政は公的プログラムの充実や、社内システムの整備を支援していくことが必要です。
◇ 技術・技能の継承のためのリーダーの養成、人材育成の体制づくりといった「教え方」についての教育・訓練に対する支援
◇ 指導者や人材育成担当者の養成を行うとともに、人材育成システム診断等を通じて人材育成の効率的推進の支援
◇ 個々の企業の現場の実状に即して技術・技能を継承していくうえで「技術・技能マップ」作成・普及などを指導し、継承の計画的実施を支援
高度熟練技能は、多くの産業を支える基盤として東京のモノづくりにとって一種の公共財と考えられます。こうした優れた技能や意欲ある技能者を地域で有効に活用したり、技術者・技能者の企業間の流動性を確保するような仕組みづくりを考えなければなりません。
◇ 優れた技術・技能を適切に評価する体制づくりと、その成果を処遇に反映させることのできる公的資金支援の整備
◇ 地域単位で技術者・技能者の人材情報を登録するとともに、企業が求める技術・技能内容を具体的に把握し、多様なニーズに対応するデータベース機能と、需要と供給を結びつけるマッチング機能の整備
半数を超える企業で若年技能者が不足していると回答されていますが、これは量的な面だけでなく、むしろ企業経営に必要な技術・技能の質の確保や地域の技術・技能の基盤を維持するために対応が急務な課題と考えることが重要です。
◇ モノづくり」とは何なのか、東京ではどんな「モノづくり」が行われているのかを「認知」させる仕組みづくり
◇ 企業との連携による「モノづくり」への興味を喚起するような機会の創出
◇ 小中学校などの早い段階からの「モノづくり」の基礎能力養成
◇ 大学、企業等との連携によるインターンシップの積極的な推進
◇ 「モノづくり」の社会的なステイタス向上への取組み
?.次代の技術・技能を担う人材育成に向けて |
東京の製造業が今後とも活力を維持していくためには、活力の源泉となっている「モノづくり」機能を担っている技術・技能者の育成こそが鍵となります。技術の高度化に備えた継承体制の確立のためには、「教育・職業訓練・人材育成支援」、「設備の高度化への支援」、「技術・技能動向に関する情報支援」を総合的に展開していくことが求められています。