新製品・新技術開発失敗物語(1)

〜その測定器は何を測定しているの〜

 

 新製品・新技術の開発に失敗はつきものです。というよりは、成功することの方がまれなことというべきかもしれません。まずその第一弾として若き日の私の大失敗を披露いたします。内容が幼稚、かつ未熟で、失敗というもおこがましいかもしれませんが、開発というものを気楽に考えていた私を打ちのめした思い出深いことではありました。

 話は、ある研究所からの試作測定器製作の依頼から始まります。大手電機メーカーの中央研究所の半導体開発部門です。半導体ウエハーの酸化膜の厚さを製造中、リアルタイムで測定したいというものでした。製造している炉には窓が2つありましたので、片方の窓から製造中の半導体ウエハーにある角度で赤外線を入れ、反対側の窓から反射光を測定するというものでした。赤外線は酸化膜表面と一部透過して底の半導体から反射して二重に反射されます。表面と底から反射される赤外線はお互いに干渉し、反射光の強度は一般に変化します。その干渉の度合いは酸化膜の厚さに関係しますから、酸化膜が成長するに従い、反射光の強度はサインカーブ的に変化します。このカーブから酸化膜の厚さが分かるわけです。

 原理は単純です。赤外線のセンサーで測定したこともありますから、測定器全体は赤外線発生装置と受光装置プラス、ペンレコーダーで簡単な構造です。「まかしといて下さい」という感じで、秋葉原で部品を買い集め、早速組み立てを開始し、ごく短期間で作ってしまいました。そして、意気ようようと測定器を納品しました。

 しばらくして、そこから「佐川さん、どうも変な波形がでているのですが見てくれますか」という電話がかかってきました。駆けつけて見させてもらいますと、誇張して書いてありますが、図表1にあるような右上がりのノコギリ形の波形です。干渉強度はもっとなめらかに変化するはずです。始めは、全く理解できませんでした。数日して分かりました。波形は測定器が置かれている部屋の温度を表していたのでした。ノコギリは設置されていたエアコンのオンとオフに対応しています。赤外線受光素子は温度によって感度が大きく変化するので室温が変化すると当然、その温度に応じてアウトプット電流が変化するのでした。わが自慢の酸化膜厚さ測定器は実は、室内温度測定器でもあったのでした。受光素子の温度補償を全く考慮していなかったというおそまつの一席です。


鞄本アプライドリサーチ研究所 研究調査部 佐川 峻(たかし)

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