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地方財政の急速な悪化が進んでいるなか、企業会計・事業評価の各手法の導入とともに、自治体の合併を進めるべきであるという議論が盛んにおこっている。このような状況に対して、当研究所ではすでに企業会計・事業評価手法の導入に対するアンケート調査を実施したが^（注１）、今回は引き続き市町村合併に関する意識調査を実施した。

市町村合併に関する議論は、自治省を始めとして地方分権推進委員会、さらに各種メディアにおいて、それを強力に推進することが将来的にきわめて重要であるという意見が大勢を占めている。特に、自治省では、ホームページにおいて２回の市町村合併に関するアンケート結果を公表しているなど、議論の旗振り役となっている^（注2）。

しかしこのような世論にもかかわらず、市町村合併は遅々として進まないのも事実である。この理由として、市町村合併はそれに係わる様々な立場によって影響が異なることがあげられる。例えば、自治体職員は余剰事業所のスクラップ・アンド・ビルドが実施され痛みを伴うのに対して、住民にとっては社会福祉等のサービスの多様化が図られるなどが予想される。

本調査では、このような複雑なテーマに関して、まず実務上で最も影響を受ける自治体の事務当局に対して、その概要を調査するものである。なお本調査も、前回の調査と同様に、公共経営問題プロジェクトチームの谷沢が担当した。

２

調査方法の概要

今回のアンケート調査は、首都圏の茨城県、埼玉県、千葉県、神奈川県の全市町村294地域に対して実施した。アンケートを首都圏の４県に絞った理由は、単に回収を容易にするためである。また今回のアンケートは、同一の自治体でも配布セクションによって正反対の回答となることが想定されるため、基本的には財務課宛てに発送することによって、自治体事務局の意識を探ることとした。この点は、首長と議長を対象とした自治省のアンケートと大きく異なっている。

調査方法は、前回と同様に発送はアンケート用紙（Ａ４版、２枚）を説明文とともに郵送し、回収には当研究所へのＦＡＸを利用してもらった。アンケート用紙は10月７日に配布して、10月30日を回答期限とした。回答地域数は115市であるため、回収率は39.1％となった。通常のアンケート調査では、回収率がせいぜい20％程度であるのと比較して、当アンケートの回収率はきわめて高くなった。この理由としては、市町村合併が自治体当局にとってかなり関心の高いテーマであったほか、回収にあたってＦＡＸを利用したことが影響していたと考えられる。 ちなみに回収状況を表１によって県別、市町村別にみると、県別・市町村別ともさほど大きなバラツキがなく、実態に比較的近い結果が入手できたと考えられる。





質問内容は、大きく分けて�@合併議論の進捗状況、�A合併によるメリット・デメリット、�B合併に向けて必要な施策、�C過去に実施した合併の経費削減効果の４つである。このうち�Cは、市町村合併が自治体の財務改善にメリットが大きいことを暗黙の前提として議論している昨今の風潮を、あらためて自治体事務当局に確認するために加えたものである。

３	アンケートの分析結果

＜合併に関する議論の有無＞
まず合併に関する議論が、なんらかの形で現われているかどうかをみると、全体のほぼ３分の２の自治体では全く発生しておらず、合併議論が現われている割合（すなわち「10年以上前からある」「数年前からある」「つい最近おこった」の合計）は、23地域、20.0％にすぎない。この数字をいかに判断すべきか難しいが、自治体数がきわめて多いなかでは、比較的には合併議論が活発化しているとみるべきかもしれない。なお「その他」では、話題としてのぼった、議会で議題として取り上げられた、役所内部で認識はしているなどがあげられていた^（注3）。合併議論があらわれる割合を市町村別にみると、市（22.9％）が町村（17.9％）よりも高くなっている。





合併議論がおこっている23地域に対して、その議論の積極性を確認すると、「積極的と消極的が半々」と答えた地域が全体の43.5％となっており、次に「やや積極的」と「やや消極的」が同率の18.2％を占めている。これは、自治体合併の話題が上がっているとはいえ、合併議論を住民意識面から捉えると必ずしも積極的に考えているわけではないことを示唆した結果と考えられる。

議論が積極的である割合（「大いに積極的」と「やや積極的」の合計）を市町村別に比較すると、市（27.3％）が町村（16.6％）を10％以上上回っている。





合併手続がどの程度進んでいるのかを、23地域にかぎって合併手続順にみると、「住民発議には至らず」が39.1％で一番多く、次に「本年中に合併予定」が26.1％となっている。ただし、法定協議会設置後の具体的な事務作業に入っている地域の割合は、全体の３割を越えており、合併に関する住民コンセンサスの有無にかかわらず手続が進行しつつある。
なお「住民発議には至らず」の割合を市町村別にみると、町村（50.0％）が市（27.3％）を大幅に上回っており、町村は市に比べて合併議論がさほど進んでいない。





さらに合併の方法を23地域に限って、「新設合併」、「編入合併」、「未定」、「その他」に分けて質問すると、圧倒的に「未定」が多く全体の78.3％に達していたほか、「編入合併」は全くなかった。そして「新設合併」が２割弱にすぎないという結果は、「本年中に合併予定」が26.1％あることから判断すると過小な数字である。この理由としては、合併という言葉を合併される側からみると、吸収されるといったイメージとして受取ることが多いことから、各自治体とも合併方法については極めて慎重に扱っているためと考えられる。
ここで「未定」の割合を市町村別にみると、町村（83.3％）が市（72.7％）より高くなっている。人口が少なく財政基盤の弱い町村は、市よりも合併方法に慎重にならざるをえないことが裏付けられる。





＜合併のメリット・デメリット＞
次に、合併のメリット・デメリットについて、全地域に対してやや詳細に質問した。まず合併によって得られるメリットを複数回答してもらった。ここで複数回答の場合に、項目ごとに回答数を回収地域数（115地域）で割った比率を回答率と呼ぶこととする。図５で項目ごとの回答率をみると、「行政事務の効率性が上がる」（60.0％）、「行政サービスの多様化・高度化が図れる」（52.2％）がそれぞれ半数を越えており、自治省などで主張している合併メリットが確認できた。特に市町村別にみると、市では「行政サービスの多様化・高度化が図れる」がもっとも高いのに対して、町村では「行政事務の効率性が上がる」が一番高くなっていた。
次に、合併メリットの大きいと考えられる業務のうち上位３つを選択すると、図６のように「総務費関連」（72.2％）が他の業務を大きく引き離しており、次に「民生費関連」（42.6％）、「衛生費関連」（37.4％）と続いた。反対に、「労働費関連」（0.9％）や「農林水産業関連」（4.3％）「商工費関連」（9.6％）などの産業振興関連の費用はほとんど合併メリットが期待できないとみなしてしていた。







反対に、合併によって発生するデメリットを図７でみると、「きめこまやかなサービスができなくなる」（59.1％）、「住民の意見が施策に反映しにくい」（54.8％）の２つが半数を越えている。市町村別にみると、「きめこまやかなサービスができなくなる」と「住民の意見が施策に反映しにくい」は、市よりも町村で回答率が10％ポイント以上高くなっている。なお「合併のメリットがわからない」も12.2％あった。このような項目が１割を越えていたことは意外なことである。市町村合併には、動機づけを明確にすることが重要であるかもしれない。
また合併によって発生するデメリットの大きな業務を上位３つ選択すると、図８のように「土木費関連」が最も高く42.6％となっている。そのほか、「農林水産業費関連」（35.7％）、「教育費関連」（27.8％）も高くなっているが、総じて合併メリットの大きな業務と比べてバラツキが大きくなっている。なお「その他」のなかには、議会費をあげた地域が比較的多かった。








＜合併に向けて必要な施策＞
合併に向けた施策として何が必要であるかといった点に関連して２点ほど質問した。まず質問１で「（合併議論が）まったくおこっていない」と回答した理由を質問すると、図９のように「住民等が望んでいない」（29.7％）、「工夫次第で対応可能」（28.4％）、「その他」（28.4％）の３つがほぼ同率となっていた。このうち「その他」は、大半が たまたま合併議論が出ていないというものであったが、これ以外に合併しなければならない積極的な理由がみあたらない、自治体の財政状況が異なるため合併が難しい、合併のメリットが把握できない、自立した都市経営を目指しているなどの意見があった。





また今後、合併を進めるにあたって必要な措置を上位３つ選択すると、図10のように「地域格差を生じないような制度の構築」が67.8％にのぼった。この背景には、合併の必要性は認識しているものの、合併によるデメリットをいかに少なくするかに腐心していることが感じられる。そのほか、「合併必要性の情報を住民に提供」することや「ヨリ一層の財政支援措置」も４割を越える高さであった。合併の必要性とは別に、合併が自治体当局にとって頭の痛い問題であることが裏付けられる。
項目ごとに市と町村の回答率を比較すると、「地域格差を生じないような制度の構築」は町村（76.1％）が市（56.3％）を上回っていたが、「ヨリ一層の財政支援措置」と「合併必要性の情報を住民に提供」は町村が市より上回っていた。町村にとっては、市との合併が新たな格差拡大として受け止めていることがわかる。





＜合併の経費削減効果＞
最後に、本アンケートでは過去に実施された合併がどの程度の経費の削減をもたらしたのかも質問した。我が国における自治体の合併は、過去に明治の大合併（明治22年４月以降）、昭和の大合併（昭和28年10月以降）と２度実施され、そのたびに市町村数が大幅に減少した。このため明治の大合併まで含めて分析すべきであろうが、過去の数値を把握することは極めて困難であるため、戦後の合併に関して回答してもらった。もちろん戦後の合併でも、その効果を数量的に把握することは難しいが、本アンケートではとりあえず合併前後の職員数の変化などから間接的に把握する方法を採用した。

まず合併を実施した地域数をみると、表２のように全部で40地域（有効回答数の35％）あった。これらを時期別にみると、昭和の大合併の時期を含んだ昭和28年10月〜39年12月が31地域と圧倒的に多かった。この時期をさらに詳しくみると、昭和29年が７地域、昭和30年が５地域であった。次に、これらの合併地域における経費削減の程度は、「その他」が26地域で一番多かった。そこで「その他」を除いた地域に限ってみると、20％以上の減少から20％未満の増加まで、かなりバラついており、かならずしも削減のみでなかった。特に、昭和40年代以降の合併では、明確に減少と回答した地域はわずかに１地域しかなく、残りの４地域が合併によって経費が現状並みか増加したと答えている^（注4）。最近の通説と異なり、合併が必ずしも経費削減をもたらすとは限らない結果となっている。





もっとも、既述のとおりここでの経費削減率は職員数の大小から推計しており、厳密な方法を採用しているわけではない。この問題を検討するためには、より厳密な方法で再度調査をおこなうべきことはいうまでもない。

４

要約と含意

本調査は、首都圏４県の自治体事務当局（主に財政課）に対して、最近活発化している市町村合併に対する考え方を把握するために実施したものである。その結果によると、新聞等で合併の議論は比較的活発となっているが、地域住民がかならずしも積極的に承認しているわけではなかった。そのような状況のなかで、法定協議会などの具体的な事務手続が自治体の事務当局主導で進行しつつあるため、合併方法については住民意識に配慮して未定としている自治体が多かった。

合併は、総務・民生関連を中心として行政事務の効率化が図れるものの、反面ではきめこまやかなサービスが提供できなくなるといったデメリットが農林水産業・教育関連で発生することが予想され、市よりも町村でこのようなデメリットを強く想定していた。このため今後は合併を進めるにあたって、地域格差を生じないような制度を構築することが必要となる。さらに昭和40年以降に実施された合併に限ってみると、かならずしも合併が経費削減に寄与しない可能性があることがわかった。

本調査から導きだされる政策上の提言としては、�@合併に向けた地域住民への説明には充分な時間をかけること、�A地域住民に対して自治体の合併がいかなる業務にどの程度の影響を与えるのかを具体的に提示すること、�Bもし地域住民が合併を望んでいない場合には、合併にかわる代替的な措置を実施することも事前に検討すべきこと、などがあげられる。このうち�@�Aは、つまるところ「何を目的として合併をするのか？」を明確にしておくことである。このような問いは、特に合併によって実質的に核都市に編入される可能性の高い周辺町村にとっては、非常に重要なことといえよう。



注） １．詳細は、「自治体の財務改善に対する取組みの実態−『首都圏緊急アンケート』の集計結果を中心として」を参照されたい。 ２．自治省の実施した市町村合併に関する２つのアンケート調査とは、以下のとおりである。第一の調査は、都道府県および市町村の首長と議会議長（合計6558人）を対象として平成９年９月に実施されたものであり、第二の調査は合併協議会設置（予定を含む）市町村（29団体）を対象として平成10年３月に実施された調査である。もっとも第二の調査は、ホームページ上においてアンケート結果が公表されていないため、第一の調査によると合併が必要と考える割合は都道府県分で94.5％、市町村分で65.8％と、きわめて高くなっている。ただ、第一の調査についても、都道府県および市町村の首長と議会議長を対象として実施することが、はたしてどれだけの必要性があるのかは若干の疑問がある。 ３．このほか、茨城県内の一町村からは、「自治体職員や住民からは市町村合併に賛成の議論がおこっていないが、国会議員からは自分の選挙区を統括しやすくするため合併賛成の動きがおこっている」といった情報が筆者に寄せられた。 ４．４地域の具体的な地域名を提示することは差し控えるが、地域ごとに所在県名、人口（平成７年国勢調査）を示すと以下のとおりである。�@10％以上20％未満上昇したＡ市（千葉県、20万人台）、�A10％未満上昇したＢ市（千葉県、10万人未満）、�B10％未満上昇したＣ市（千葉県、10万人未満）、�Cほぼ変化なしのＤ市（茨城県、10万人未満）。

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